オランダ語を勉強していると、一度は目にしたことがあるであろう「-je」という名詞の語尾。絵本など子供向けの本などで見かけることが多いかもしれません。有名なオランダ生まれのうさぎの女の子「nijntje (英:miffy)」にも語尾に「-je」が付いていることがわかります。
つまり、オランダ語の文章の世界観を正しく認識するためには、理解しておくべき重要な文法事項なんです。
ただ、辞書を引いても「-je」が付いている形でいつも載っているとは限りませんよね。
この記事では、オランダ語の名詞の語尾で使われている「-je」の意味や文法ルールを例とともにわかりやすく説明していきます。
名詞の語尾「-je」の正体とは?
オランダ語の名詞の語尾に付いている「-je」は、一般的に「指小辞(ししょうじ)」(英:diminutive)と呼ばれている接辞に当たります。
指小辞(ししょうじ)
小さいこと,さらに,それから転じて,かわいらしいこと,親しみのもてることなどを表わす接辞。多くの場合、接尾辞である。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
つまり、オランダ語の名詞の語尾に「-je」を付けることで、かわいらしさや親しみやすさを出しているということです。
以下で名詞の例を見ながら、指小辞の雰囲気を確認してみましょう。(ここでは、単数形の名詞を用いて説明します。指小辞の複数形の作り方は後述します。)
<例>
oog [oːx](目) ⇒ oogje [oːxjə](小さな目、おめめ)
kat [kɑt](猫) ⇒ katje [‘kɑtcə](子猫)
brief [brif](手紙) ⇒ briefje [brifjə](短い手紙)
雰囲気はわかりましたでしょうか?しかし、どの言語の文法にも例外が存在するように、オランダ語の指小辞も名詞によって使い方のルールがあります。つまり、どの名詞も「-je」を付ければ指小辞を表すことができるというわけではありません。
次に、名詞によってどのように指小辞が変化するのかを例とともに見ていきます。
どの名詞にも「-je」を付けてもいいの?文法ルールを説明
前述したオランダ語の名詞は、「-je」を付けることで指小辞を表現しましたが、実は名詞の語尾によって付ける指小辞の形を少し変える必要があります。
種類は大きく分けて「-tje」「-etje」「-pje」「-kje」の4つです。
以下でオランダ語の名詞に指小辞を付ける際の法則を、名詞の語尾に注目して一つずつ確認していきましょう。
「-tje」を付ける名詞の語尾
- 母音(a, e, i, o, u, ij)または w である
- 長母音のあとの r, l, または n である
- 非強調の -en, -er, または -el である
<例>
appel [‘ɑpəl](りんご) ⇒ appeltje [‘ɑpəlcə](小さなりんご)
varken [‘vɑrkə(n)](ぶた) ⇒ varkentje [vɑrkəncə](こぶた)
auto [‘oːtoː](車) ⇒ autootje [‘oːtoːcə](※名詞が a,o,u,é で終わる場合、母音を重ねます)
有名な例外として「jongen [‘jɔ.ŋə(n)] (男の子)」があります。
「jongen」に「-tje」を付ける場合は、語尾の en を落として「-etje」を付けて「jongetje」とします。
「-etje」を付ける名詞の語尾
- 短母音のあとの r, l, n, m または ng である
<例>
zon [zɔn](太陽) ⇒ zonnetje [zɔnəcə](お日さま)
bal [bɑl](ボール)⇒ balletje [bɑləcə](小さなボール)
オランダ語の短母音を保つためのスペリング規則により、ng 以外の語尾の子音は重ねて表現されます。
「-pje」を付ける名詞の語尾
- 長母音のあとの m である
<例>
boom [boːm](木) ⇒ boompje [boːmpjə](小さい木)
「-kje」を付ける名詞の語尾
- 非強調の -ing である
<例>
koning [koː.nɪŋ](王) ⇒ koninkje [koː.nəŋkjə](小国の王)
(※ ng の音が nk の音に変化しています)
指小辞の付いた名詞を複数形にするには?
語尾に “-s” を付けるだけで、オランダ語の指小辞の付いた名詞を複数形にすることができます。
前述した例で使った名詞を複数形にしてみましょう。
<例>
(単)appeltje ⇒ (複)appeltjes
(単)balletje ⇒ (複)balletjes
名詞の性が変わる?!「-je」を付けるときには冠詞に注意
オランダ語には通性名詞と中性名詞の2つの性が存在して、通性名詞には定冠詞に「de」を、中性名詞には定冠詞に「het」を使います。
しかし、オランダ語の名詞に指小辞を付けた場合、その名詞が全て中性名詞に変化する、という特徴があります。
そのため、元の名詞の性によらず、指小辞が付いた名詞には定冠詞に「het」を使うことになります。
<例>
de auto ⇒ het autootje
de boom ⇒ het boompje
まとめ
今回は、オランダ語の文章や日常会話でもよく用いられている指小辞の使い方を見ていきました。文法書では指小辞が詳しく取り上げられることはあまりないように感じますが、オランダ語の独特な文法事項として押さえておきたいポイントかと思います。
オランダ語の文章で指小辞が使われている名詞を見かけたら、元の名詞との雰囲気の違い感じ取り、より深くオランダ語の世界を楽しんでいただけたらと思います。
おまけ
冒頭で簡単にご紹介した “nijntje” について、文法面から簡単に解説したいと思います。
nijntje はオランダ語でウサギを意味する “konijn” から作られた造語だと考えられます。
この記事で学んだように、”nijntje” の語尾に付いている「-je」は指小辞で、小さなウサギであることを表しています。
また、konijn は語尾が「ij + n」で、「長母音+ n 」の組み合わせになっています。
そのため、長母音のあとに n があるので、「-je」ではなく、「-tje」が使われているということです。
nijntje シリーズの絵本には可愛らしい指小辞を使った名詞がたくさん使われていますので、興味のある方は一度オランダ語で読んでみてはいかがでしょうか。
冒頭でご紹介した “nijntje” という名前の文法的な解説は、最後のおまけでご紹介しています。気になった方は最後まで覗いて行ってくださいね!